研究概要 |
細胞内の蛋白質は生合成されてから様々な半減期で代謝回転しており、その蛋白質分解の調節・制御機構は、現在最も精力的に研究されている分野の一つと言える。プロテアーゼ活性の調節機構の他、基質となる側の蛋白質についても、被分解性を決定するいろいろなファクタが提案されている。我々はラット肝脂肪酸結合蛋白システイン残基(Cys-69)にシステインがSS結合している分子種を新たに見いだし、これがカテプシンB,Dなどのプロテアーゼにより容易に分解されることを報告した。細胞質は還元的な雰囲気にあり蛋白質中のシステイン残基は遊離のチオール基をもっているが、さまざまな酸化的なストレス下ではグルタチオンなどと混合ジスルフィドを形成することがしられている。また、システイン残基は酵素の活性中心、金属の配位子などの重要な機能をもっているが、一方細胞質蛋白の中には機能の全くあきらかでないシステイン残基がしばしば見られる。先の肝脂肪酸結合蛋白質は哺乳類、鳥類、両生類、魚類の間で高い相同性をもっており、いわゆる肝型の脂肪酸結合蛋白サブファミリを形成しているが、それぞれ分子内に1モル存在するシステイン残基の一次構造上の位置は異なっており相同ではない。われわれは、この一見、機能を持たない様にみえるシステイン残基が、蛋白質の被分解性を決定しているという作業仮説のもとに研究を進め、今回、両生類の肝脂肪酸結合蛋白のシステイン残基(Cys-91)がグルタチオンとジスルフィド結合を形成したものが、やはりキモトリプシンなどにより急速に消化されることを見いだした。また、ラット肝脂肪酸結合蛋白のCys-69にシステインより生理的なチオールであるグルタチオンが結合すると同様に被分解性が高まることを確認した。現在さらに異なるチオール基をもつ蛋白について検討している。
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