ラット肝脂肪酸結合蛋白の翻訳後修飾として見いだした(1)isoAsp-105の生成、(2)システインとの混合ジスルフィド形成について、これらの修飾を受けた蛋白質の被分解性、特に、細胞内プロテアーゼに対する感受性の変化の蛋白質化学的解析と、蛋白質の本来の生物活性とに及ぼす影響とを中心に研究を進めた。また一連の研究で、ラット上皮細胞の脂肪酸結合蛋白と硬骨魚類の肝脂肪酸結合蛋白が還元的な細胞質に存在するのにもかかわらず、それぞれ2個と1個のジスルフィド結合を持つことを明らかにしたので、このジスルフィド結合の機能の解析をも目的とした。 条件の検討を行い、炭酸イオン存在下でトランスペプチデーションが起こりやすいことからイソアスパラギン酸105をもつラットの脂肪酸結合蛋白を十分量調製することが可能となった。各種の蛋白質分解酵素を作用させるとこの修飾を受けた蛋白質は急速に分解された。また脂肪酸結合能もネイティブな蛋白に比べ二桁以上大きくなっていた。isoAsp-105蛋白は生物活性が低下し、蛋白分解の感受性が著しく高まるというこの結果は、蛋白質の代謝回転にこの修飾が関与していることを示唆している。 また、相同な脂肪酸結合蛋白質で一次構造上異なる位置にシステイン残基をもつ数種の蛋白について、ジアミドによる酸化でグルタチオンとの混合ジスルフィドを形成させた。この場合はいずれも脂肪酸結合活性には変化が無いが、蛋白質分解酵素への感受性は著しく高まった。以上の結果はこれらの二つの修飾をもたらす要素は共存イオン種(+時間/温度)と酸化的ストレスと異なるがいずれも被分解性が亢進し、蛋白質の半減期の決定にかかわることが示された。ジスルフィド結合の有無はこの蛋白質の生物活性には直接影響しないこと、立体構造の安定化に寄与していることなども明らかにできた。
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