さまざまな細胞機能の発現と制御に蛋白分解の過程が不可欠であることが相次いで証明され、細胞内外での選択的な蛋白質分解の機構は極めて活発に研究されている。翻訳後修飾が蛋白質の寿命を決定している要素の一つであるという概念は従来よりあるが、実験事実は余り報告されておらず、固有のアミノ酸配列に分解のシグナルを求めようとする方向の研究などが主流となっている。本研究では細胞質タンパクの遊離システイン残基に生理的なチオール化合物であるグルタチオンを結合させると、プロテアーゼ感受性が高まることを確立した。細胞質蛋白には酵素活性などに関与しない機能不明のSH基をもつ蛋白質が多く見られることはこの機構が普遍性をもつことを示唆している。また、上皮細胞の脂肪酸結合タンパクと硬骨魚類の脂肪酸結合タンパクの構造解析によりこれらが還元的な細胞質に存在するにもかかわらず、ジスルフィド結合をもつことを蛋白質化学的に明らかにするとともに、計算機による立体構造モデリングでシステイン残基間の距離がジスルフィド結合可能な範囲にあること示した。これらの結果は、チオール・ジスルフィド交換反応による蛋白質安定性の調節機構の存在を示唆している。今後、このジスルフィド形成によるプロテアーゼ感受性の顕著な増加の分子機構を明らかにしたい。一方、肝細胞から調製したサイトゾルを保温するとイソアスパラギン酸をもつ分子種が短時間に生じることを確認した。これは主鎖に明確な構造変化をもたらすが、予想通り、タンパク質分解酵素に対する感受性の増加が見られた。このイソアスパラギン酸生成の速度は周囲のアミノ酸配列に影響されるため、これもタンパク質の半減期決定要因の一つと考えられる。アミロイドーシスの多くは原因タンパク質の限定蛋白質分解による構造変化がアミロイド原性をもたらすとされている。この基質である原因タンパクの一つの免疫グロブリンk-鎖の構造解析をおこない、配列の比較結果をモデリングによる立体構造上にマッピングすることにより、特定の位置で限定タンパク質分解が起こる機構を考察した。 蛋白質分解の制御機構のもっとも大きな部分はプロテアーゼインヒビターによる調節である。本研究では担子菌の新規のプロテアーゼインヒビターの構造お機能の解析から、特にこのタンパク質がインヒビターとして活性なコンフォメーションと不活性なコンフォメーションをとることが明らかになり、インヒビター活性の調節によるプロテアーゼ活性の制御という新しい調節機構の存在を示唆する興味深い結果を得た。
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