研究概要 |
ラットグリオーマ細胞を用いグルタミン酸で細胞内グルタチオン(GSH)を枯渇誘導し,それによって引き起こされる活性酸素を介したDNA断片化を伴う神経系細胞アポトーシスでアラキドン酸代謝の役割を明らかにするために以下のことを検討した.DNA損傷が引き金となるアポトーシスの初期段階で,DNA断片を認識するDNA依存症プロテインキナーゼ(DNA-PK)と,およびDNA修復に働くポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)が関与していると推定されることから,グルタミン酸によるこのアポトーシスの系でそれらの酵素活性を調べたが,有意差が認められなかった.またアラキドン酸存在下でも同様であった.そこで,実験系をDNA損傷誘導アポトーシスと考えられている系に変え,紫外線照射で誘導した細胞死で同じくDNA-PKとPARPの活性を調べることにし,またアラキドン酸の両酵素に及ぼす影響を現在検討中である.これまでの実験から,紫外線照射した膀胱癌細胞及びグリオーマ細胞では,DNA損傷の修復に関与すると考えられている細胞内のNADの消費,減少がみとめられPARP酵素の関与が推測された.またこの系では,グルタミン酸よるグリオーマ細胞でのアポトーシスに認められたGSHの減少,ATPの減少および巨大DNA断片化が観察されたが,アラキドン酸による脂質過酸化の増大やNADの減少は認められなかった.これらのことから,グルタミン酸によるGSHの枯渇誘導アポトーシスでは,巨大DNA断片化にはPARPの酵素が関与していないと考えられる.さらにそのGSH枯渇による細胞死の過程で,アラキドン酸はアポトーシス様細胞死からネクローシス様細胞死へ変換させることが認められ,その作用はアラキドン酸代謝によるものなのか,不飽和脂肪酸のラジカル連鎖反応による脂質過酸化を介在するのか,さらにプロテインキナーゼCの関与及びそのサブタイプについても引き続き現在検討中である.
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