ゴルジ装置に存在する糖転移酵素は2型の膜蛋白質であり、N末側を細胞質側に、C末側をゴルジ内腔に向けている。糖転移酵素はゴルジ装置のどの位置に停留させるかを決めているメカニズムを明らかにするため、以下の2つの実験を行った。 (1)生体内における変異型ルイス酵素の解析:赤血球上や消化管におけるタイプIルイス抗原の発現は、ルイス酵素により規定されている。ルイス酵素遺伝子には、野性型と3つの変異型(le1、le2、le3)の4つの対立遺伝子がある。生体内におけるこれらの変異酵素の解析を行ったところ、膜貫通部位のLeu20 to Argの変異がle3酵素のゴルジ膜への停留を妨げていることが明かになった。このため、le3酵素は糖脂質上の抗原は合成できず、赤血球の表現型は陰性となり、正常大腸や大腸癌のムチン蛋白質上の抗原量も減少することが明かになった。(2)糖転移酵素をゴルジ装置のどの位置に停留させるかを決めているゴルジレセプター分子(GRP)の候補を、酵母two hybrid systemによりスクリーニングした。bait側として、H酵素、Se酵素などのフコース転移酵素をはじめとするヒト非癌部右半結腸粘膜で発現している各種糖転移酵素のcoding領域全長、及び、酵素活性部位、膜貫通部位と細胞質尾部をDNA Binding Domain Vector pDBLeuに組み込んだ。prey側としては、手術材料として得たヒト非癌部右半結腸粘膜よりcDNAを合成し、GAL4 Activation Domain vector pPC86に組み込み、150万個のindependent cloneを持つcDNAライブラリーを作製した。H酵素全長をbaitとして、スクリーニングを行ったところ、未知の分子を含む数個のGRP候補が得られ、現在、さらなる解析を行っている。
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