哺乳類の染色体の末端に存在するテロメアDNAは(TTAGGG)nの反復配列からなり、染色体の構造安定化に寄与する。またテロメアDNAは細胞の老化と共に短縮し、生体内時計としての役割を果たす。しかし、細胞が癌化、不死化すると短小化が停止し、伸長するようになる。このようにテロメアDNAは、細胞の老化や癌化と密接な関係にあり、急速に注目されている。テロメアDNAの伸長反応には、テロメラーゼと共にテロメアDNAの特異的に結合する蛋白質が関与する。TRF1蛋白質は哺乳類のテロメアDNAに特異的に結合し、テロメアDNAの長さと監視しながら、テロメラーゼのテロメアDNA伸長活性を負に制御する。またTRF1のDNA結合領域は、転写因子MYBのDNA結合領域と一次配列高い相同性を有する。 本研究では、ヒト及びマウスTRF1いずれにおいても、全長でなくMYB様のDNA結合領域のみでも、テロメアDNAと比較的特異的にかつ強く結合できることを明らかにした。またヒト及びマウスTRF1のDNA結合領域が結合するのに必要な標的テロメアDNAの長さは、16塩基対であることも明らかにした。そこで、ヒト及びマウスTRF1のDNA結合領域ペプチドをペプチド合成機で合成し、逆相HPLCで精製した。また、標的テロメアDNAオリゴヌクレオチドをDNA合成機で合成し、逆相HPLCで精製した。ヒト及びマウスTRF1のDNA結合領域とテロメアDNAとの複合体の三次元構造を決定するために、これらの精製したペプチドとオリゴヌクレチドとの複体の結晶化と進め、最適の結晶化条件を探索している。またこれと共に、ヒト及びマウス双方のTRF1全長に対応する遺伝子をpETベクターに挿入し、大腸菌で発現する系を構築し、発現した蛋白質をほぼ単品にまで精製する方法を確立した。ただ、大腸菌内での発現量が必ずしも満足できる量ではないため、開始コドン近傍にあるマイナーコドンをマジャーコドンに改変させたりして、ヒト及びマウスTRF1全長蛋白質の収量を上昇させるよう努力をしている。とりあえず大腸菌から精製したヒト及びマウスTRF1全長蛋白質と標的テロメアDNAオリゴヌクレオチドとの複合体の結晶化を進めつつあり、ヒト及びマウスTRF1全長蛋白質とテロメアDNAとの複合体の三次元構造と決定する予定である。
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