研究概要 |
神経細胞接着因子(N-CAM)に特徴的に見いだされるポリシアル酸は、神経系の構築や記憶などの現象に密接にかかわっていることが明らかになりつつある。従って、ポリシアル酸の合成・発現機序を明らかにすることは、神経系の構築や記憶などの機構解明に必須である。我々はこのポリシアル酸合成に直接関与する2種のα2,8-シアル酸転移酵素(STX,PST)をクローニングし、これら2種のポリシアル酸合成酵素がどのように役割分担をし、どのようにポリシアル酸の発現制御に関与しているかを明らかにしようと試みた。昨年度それらのゲノム構造ならびにプロモーター領域の解析を行うとともに、in vivoにおける基質特異性の違いを明らかにした。しかし、発現制御の観点から考えれば、酵素の特性だけでなく、基質となる糖タンパク質(N-CAM)側の糖鎖構造にも注目する必要がある。特に、in vitroの酵素活性解析から、N-結合型糖鎖のα1,6-Fucoseの存在がポリシアル酸の合成に関与する可能性が考えられていた。本年度は特に基質糖タンパク質側の糖鎖構造に注目し、フコースを含む糖鎖を合成できない変異株CHO Lec13をもちいてin vivoにおけるポリシアル酸の合成と発現の解析を進めた。その結果、変異株CHO Lec13中でのポリシアル酸の生合成速度は親株と比べて大きな違いはなかった。しかし、変異株CHO Lec13でのポリシアル酸の発現は親株に比べて著しく低かった。糖鎖構造の解析ならびにパルスーチェイス実験の結果、変異株CHO Lec13中でのポリシアル酸の発現の低下はおもに、N-結合型糖鎖のα1,6-Fucoseが存在しない基質糖タンパク質(N-CAM)ヘのポリシアル酸合成後、ポリシアリル化糖タンパク質が分解されることによるものであることが判明した。
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