ラット下垂体腫瘍のエストロゲン依存性増殖に関わる遺伝子発現について明らかにする目的で、平成10年度にエストロゲン応答性増殖をする下垂体細胞株MtT/E-2を樹立し解析した。さらに平成11年度は、原発性下垂体腫瘍を材料にPTTG遺伝子の発現解析を特にラット系統差によるエストロゲン応答性の違いに着目して検討した。 成果:A.エストロゲンに非依存性の下垂体細胞株MtT/Eから、10^<-13>-10^<-9>Mのエストロゲンに応答して細胞増殖をするサブラインMtT/E-2が樹立された。この細胞は下垂体組織と同様にa型のエストロゲン受容体を発現していた。近年発見された下垂体腫瘍遺伝子であるPTTGのmRNAは、RT-PCRによる解析で、ラットの正常下垂体では検出されず、MtT/E-2細胞においてのみ発現していた。エストロゲン投与後、c-myc、cyclinDの上昇がみられたが、そのときPTTG発現の増加は観察されず、エストロゲン反応性との関わりは低いと考えられた。この細胞株は親株がホルモン産生性がないのに対し、GH産生能を有していた。興味深いことに、その産生調節は甲状腺ホルモンよりもレチノイン酸やデキサメサゾンに依存的であり、より胎生期下垂体細胞に近い性質を示した。また、この細胞のラットに移植実験により、in vivoにおいてもエストロゲン応答性の腫瘍形成能があることが確認された。 B.下垂体腫瘍に高発現するがん遺伝子として見いだされたPTTGmRNAの発現を、エストロゲンによって誘発された原発性下垂体腫瘍において解析し腫瘍化への関与を検討した。1)ラット下垂体においてPTTGの発現がエストロゲンにより調節されていることが明らかになった。2)ラット下垂体のエストロゲンに対する応答性はラットの系統により異なるが、PTTG発現様式にも系統差がみられ、それらが相関していた。3)PTTGのエストロゲン応答性発現機構を解析するため、PTTG遺伝子プロモーターをクローニングし発現レポーター実験を行った結果、エストロゲンによる弱い調節が観察された。これらの結果より、PTTGはエストロゲンにより発現調節され、その発現が下垂体腫瘍化に関与していることが示唆された。
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