研究概要 |
牛脳より抽出・精製した蛋白質脱リン酸化酵素力ルシニュリン(CaN)はカルモデュリン(CaM)存在下でNi^<2+>添加によりCa^<2+>添加の場合より約4倍高い活性を示した。Ni^<2+>存在下でCaNの活性化はCaM濃度依存的であり、添加モル比1で最大活性の90%に達した。この結果をNi^<2+>がCaMに結合することによりCaNを活性化すると考えた。Ni^<2+>添加に伴い、CaMの紫外部吸収スペクトルに変化が誘起され、Ni^<2+>結合を確かめた。ただしこの変化はCa^<2+>添加で誘起される変化の約20%であった。CaNのCaM結合部位モデルペプチドを用いて、CaMの溶液構造をX線溶液散乱(SOXS)法により解析した。ペプチド存在下でCa^<2+>添加に伴いCaMの慣性半径(Rg)は減少したが,Ni^<2+>添加の場合にはRgは殆ど変化しなかった。対距離分布関数(P(r))による分子形状解析の結果Ca^<2+>系でCaMは楕円体であるが、Ni^<2+>系ではCaMが亜鈴形のままであると結論できた。以上の結果からNi^<2+>/CaMとCa^<2+>/CaMによるCaN活性化の分子機構は異なることが示された。 CaNの溶液構造をSOXS法で解析した。CaNの活性が高い条件下でのRg値は低い条件下での値に比べ約10Å大きく,活性化された状態(On状態)では非活性化状態(Off状態)に比べてCaN分子がより伸びた形状をしていることが示唆された。On状態とOffではCaNの紫外部吸収スペクトルにも差が見られた。平成11年度にはCaNのOn状態とOff状態における溶液構造の差異を更に詳細に解析する。(紫外部吸収スペクトルは当該研究補助金により購入した紫外・可視分光解析システムを用いて測定した。SOXS測定は高エネルギー加速器研究機構物質科学研究所における共同利用実験として行った。)
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