研究概要 |
蛋白質脱リン酸化酵素カルシニュリン(CaN)の溶液構造をX-線溶液散乱(SOXS)法で解析した。不活性な状態(Off状態)にあるCaN単独あるいはCaN/Mg^<2+>の慣性半径(Rg)はともに43.1Åであった。一方活性化された状態(On状態)にあるCaN/Ca^<2+>のRgは57.4Å,活性化因子であるカルモデュリン(CaM)が結合するとRgは64.3Åであった。SOXSデータの対距離分布関数解析の結果,CaN単独,CaN/Mg^<2+>で分子長約93Åの楕円体、CaN/Ca^<2+>で分子長約102Åの2ドメインモデル,CaN/CaM/Ca^<2+>では分子長107Åの3ドメインモデルに近似できた。蛍光ラベルしたCaMを用い,CaN分子に存在する4残基のトリプトファン(W)からCaMへのエネルギー移動が証明でき,前述の3ドメインモデルと併せるとCaMはCaNのÅサブユニット近傍に新たなドメインを形成して存在すると解釈できる。SOXSデータのクラツキー法による解析結果はCaN分子のコンパクトさ(3次構造)はOn,Off状態でほぼ同一であることを示し,Ca^<2+>やCaM結合に伴うCaNのW残基近辺の化学的環境は変化しないという紫外部吸収差スペクトル測定の結果とよい一致を示した。 以上の実験結果より,溶液内でCaNはドメイン構造を維持した状態で,ドメインの相対的位置を変化させOn,Off状態を調節していると結論できた。 (紫外部吸収スペクトルは当該研究補助金により購入した紫外・可視分光解析システムを用いて測定した。SOXS測定は高エネルギー加速器研究機構物質科学研究所における共同利用実験として行った。)
|