哺乳動物の副腎皮質はそれぞれ鉱質コルチロイド、糖質コルチロイド、および副腎性アンドロゲンを分泌する球状層、束状層、網状層の3層からなる。我々は、これら3層に加えて、球状層と束状層の間に皮質の幹細胞を含むと思われる未分化な細胞層(以下、未分化細胞層)を近年新たに見いだし、未分化細胞層から分化・増殖して、球状層と束状層の細胞が生じるとの仮説を提唱した。この仮説を証明するため、最近我々は未分化細胞層の性質を持つマウス副腎皮質細胞株を樹立するに成功した。 10年度は、未分化な状態を保っている細胞株に特異的に発現している蛋白質のcDNA単離を試み、転写調節蛋白質、転写コファクター、細胞間マトリクス蛋白質と相同性のある蛋白質をコードするcDNAを複数単離した。これらは、遺伝子の発現調節、細胞間相互作用に関与することから、発生・分化に重要な役割を持ちうる分子であることが期待される。 11年度は、これらの分子の細胞内発現部位の同定および、機能解析を進めた。これらのmRNAの発現を、マウスの主な臓器から調整したRNAを用いてノザン解析した。その結果に基づき、副腎での発現量が多い分子2種について、in situ hybridizationにより組織内発現分布を解析した。一方は、未分化細胞層から球状層に局在した。他方は、未分化細胞層から束状層外側に局在した。さらに、このような局在と皮質細胞のステロイドホルモン産生機能、および、増殖能の関連を調べるため、層機能マーカー分子の局在、および、DNA合成細胞の分布を免疫組織化学的に解析した。その結果、2種の分子の局在は、それぞれ、球状層細胞の分化・増殖、および、束状層細胞の分化・増殖が活発な部位とよく一致することが判明した。以上の結果は、これらの分子が副腎皮質組織の形成・維持に関与していることを示す。
|