研究概要 |
ナトリウムポンプβ鎖の細胞外側に存在する第一ジスルフィド結合ループ(L_1)は,胃壁細胞プロトンポンプβ鎖の相当する第一ジスルフィド結合ループとの機能的(ポンプ活性,ATP分解活性)互換性がなく,相同的な両ポンプ間のそれぞれに特異的領域であることを示唆している。この特異性を決める要因を探り出すことができれば,イオン選択性やイオンチャネルに関する知見を得ることができる。 そこで本研究ではまず,L内の特異的領域を絞り込むためにループ内キメラ(L_1NH;L_1内N末端側半分がナトリウムポンプ配列でC末端側半分がプロトンポンプ配列をもつもの,L_1HN;その相補型)を作成し,α鎖と共に卵母細胞中で発現させ,機能を分析した。αβL_1NHはポンプ活性,ATP分解活性ともほぼ完全に維持していた。αβL_1HNは約50%ではあるが,両活性とも維持していた。αβL_1HHが全く活性を維持していないことと併せて考えると,ナトリウムポンプとして働くには,L_1内のN末端側半分あるいはC末端側半分のいずれか一方がナトリウムポンプ配列であれば良いことになる。 次にC末端側半分内の特異的アミノ酸残基の特定を試みた。ナトリウムポンプβ鎖アルギニン148(R148)はこの領域に存在する保存的な残基であるが,プロトンポンプでは疎水性アミノ酸に置き換わっている。そこで,L_1HHL148R,L_1HNR148L変異体を作成し活性を測定したところ,前者は50%の活性を回復し,後者は活性を消失した。このことはR148が,L_1のC末端側半分内のナトリウムポンプ特異的アミノ酸残基であることを示唆している。 R148のイオン選択性への関与,およびN末端側半分内の特異的残基の同定は今後に残された問題である。
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