研究概要 |
2種のサブユニット(α,β)から構築されているナトリウムポンプは,ATPを消費してNa^+を細胞外へ,K^+を細胞内へ選択的に輸送する。これらカチオンがどの様にして選別され,どこを通って輸送されるのかという,イオン選択性やチャネル構造に関する問題は未解決な部分が多く残されている。 本研究では,これらの点について以下の新たな知見を得た。 1.β鎖の細胞外側に存在する第一ジスルフィド結合ループ(L_1)は,相同的な胃壁細胞プロトンポンプβ鎖の相当するL_1ループとの機能的互換性がなく,ナトリウムポンプに特異的領域である。L_1内の特異的領域を絞り込むためにループ内キメラを作成し,α鎖と共に卵母細胞中で発現させ,機能を分析した。その結果,L_1内のN末端側半分,あるいはC末端側半分のいずれか一方がナトリウムポンプ配列であれば,ナトリウムポンプとして機能することが判明した。さらに両半分内の特異的アミノ酸残基の特定を試みた。R148がL_1のC末端側半分内のナトリウムポンプ特異的アミノ酸残基であり,またN末端側半分はPADY配列が重要であると結論した。 2.α鎖の膜貫通領域内に存在するグルタミン酸残基(Glu-334,-959,-960)は,輸送されるカチオンのチャネル内結合部位である可能性が,変異導入実験からこれまでしばしば議論されてきた。しかしこれらはいずれもカチオン輸送に必須ではなく,変異導入はナトリウムポンプのウワバイン感受性の変化をもたらし,その結果変異体のカチオン輸送のウワバインによる阻害が観察されたものであると推定した。 3.パリトキシンは,ナトリウムポンプを単にチャネルへと変換させる作用をもつ。α鎖のN末端36残基欠失変異体にパリトキシンを作用させチャネル特性を分析したところ,この部分がゲート作用を持つことが示唆された。
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