これまで生化学・分子生物学の研究は原核生物から真核生物に発展してきたが、真核生物の研究はヒトおよび哺乳動物に集中してきた。しかし生物の多様性が最も顕著なのは無脊椎動物においてであり、蛋白質の構造や機能においても全く新しい驚くべき性質を備えた物が発見される可能性を秘めている。特に無脊椎動物では細胞免疫機構をもたない代わりに多様な抗菌蛋白質による生体防御機構を発展させている。これら抗菌蛋白質群の中から新しい構造モチーフを発見し、機能との関連を明らかにすることを目指した。 1.カブトガニ血球中から発見されたグラム陽性・陰性菌および真菌に抗菌活性を示すタキサイチン(分子量約8000)については、キチン結合ドメインであるヘベインと同じドメイン構造を持つが、3本鎖βシート構造が別に存在し、全体構造としては全く新しい構造であることが判った。キチン結合部位はC40-G60の領域であることが推定された。 2.同じくカブトガニ血球中のタキスタチンも同様の抗菌活性を有する蛋白質であり、クモ毒から単離されたCaチャンネルブロッカーωアガトキシンと類似した3次構造をとっていることがわかった。立体構造の相同性にもかかわらず、タキサイチンにはカルシウムチャンネルブロッカー活性がないことから、ωアガトキシンのC末端のフレキシブルな部分がブロッカー活性には重要であることが結論された。一方、ωアガトキシンには抗真菌活性の存在することを見出した。骨格構造のみが抗真菌活性には必要であることが推測される。 3.線虫の一種から単離された抗菌蛋白質ASABF(分子量約8000)をクローニングし、メタノール酵母で発現させることに成功した。NMRによる立体構造解析から、ASABFはαヘリックス1個、β-シート1個からなり、インセクトディフェンシンと類似した構造であることがわかった。
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