キネシンは1分子で微小管上を数μmにわたり連続的に動くことが知られている。これはキネシンが双頭分子であるために各々の頭部が互い違いに微小管と相互作用を繰り返すというモデルによって説明されている。このためには、頸部を介して2つの頭部の間での何らかの連絡が行われていると考えられ、運動連続性の起源を探ることは、運動機構を明らかにする上で重要な情報をもたらす。本研究では、キネシン様タンパク質の1種で、キネシンのような運動性を持たないKidとキネシンの間で、頭部と頸部を入れ替えたキメラタンパク質を作成し、その運動連続性をナノメートルのレベルの運動計測系で調べた。 キネシンの尾部を除いたフラグメント(a.a.1-410)はダイマーを形成し、Kidのフラグメント(a.a.1-448)はモノマーである。キネシン頭部(a.a.1-344)とKidの頸部(a.a.380-448)をつないだキメラタンパク質(Kined)と、Kid頭部(1-379)とキネシン頸部(a.a.345-410)をつないだキメラタンパク質(Kidsin)は、予想通りそれぞれモノマー、ダイマーであることをショ糖密度勾配遠心法によって確かめた。これらのタンパク質をさまざまな濃度でポリスチレンビーズに結合させ、光ピンセットで微小管上へもってゆき、ATP非存在下で微小管に結合するビーズの割合と、ATP存在下で微小管上を動くビーズの割合を調べたところ、キネシンとKinedではそれらが一致していたが、KidとKidsinでは動くビーズの割合がずっと少なかった。ATP非存在下での結合は頭部1つでももたらされると考えられるので、このことは、キネシン頭部をもつものは1分子で連続的に動くことができるが、Kidの頭部はキネシン頸部があってダイマーを形成していても連続的な運動が行えないことを意味する。従って、1分子の運動の連続性には、頸部を介した頭部同士の協同性は必要でないことが明らかになった。
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