キネシンとキネシン様タンパク質のncdは、モータードメインの結晶構造が明らかにされており、両者は多くの点で良く類似している。それゆえ、微小管上で働キネシンやキネシン様タンパク質は同様な分子メカニズムで働くことが予想される。しかし、微小管上の運動方向や運動速度、運動連続性などの点で多様性を持ち合わせている。ncdは微小管上を連続的に運動できないことが示唆されているが、キネシンのように数百歩以上にわたり微小管から解離せずに運動できないとしても、数歩程度の運動連続性があるかどうかという点については明らかにされていない。本研究ではncdの運動の実態をナノメートルのスケールで計測し、数歩程度の運動連続性があるかどうかを検討した。 ショウジョウバエのncdのモータードメインと尾部の一部を含むダイマーのフラグメント(MC1)をBCCPとの融合タンパク質として大腸菌で発現させ、精製した。このタンパク質のBCCP上のビオチンをアビジンコートしたビーズに結合させ、このビーズを光ピンセットで捕捉し、微小管との相互作用を観察した。ビーズの像は4分割フォトダイオードに投影され、20nm程度の動きを示せば検出できる。タンパク質とビーズの個数の比を変化させて、微小管との結合、微小管上の運動について調べたところ、運動に要する最小の分子数は結合に要する最小の分子数よりもはるかに大きかった。このことは、1分子のncdは微小管上を20nm以上連続的に進むことができないことを示しており、1歩の大きさが8nmであると仮定すると3歩以上の連続性がないということを意味している。モータードメインが類似しているにもかかわらずキネシンとncdで運動連続性が異なるのは、それぞれの分子の頚部が運動連続性に重要な働きを持つことを示唆している。
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