ミトコンドリアは、生物のエネルギー源であるATPを作る細胞内器官である。ATPを合成する過程では様々な物質がミトコンドリアに出入りしており、これらの物質によりミトコンドリアの機能は制御されている。また、ミトコンドリアはアポトーシスに深く関わっており、細胞がアポトーシスに至る過程ではミトコンドリアが細胞質からの信号を受けて通常では起こらない働きをすることが知られている。このようにミトコンドリアは細胞からの情報を処理することによって、機能を調節している。 今まで、ミトコンドリアの活性測定は大別して2つの方法で行われてきた。1つはミトコンドリア懸濁液で行う方法であり、もう一つは細胞内のミトコンドリアで測定するものである。いずれの場合も、1個のミトコンドリアでその活性の経時変化を追うことはできていない。細胞内ミトコンドリアは、1つ1つ個別に存在しているので、与えられた刺激に対し全てのミトコンドリアが同じ挙動を示すわけではないと思われる。また、ミトコンドリア集団での測定では、1個1個のミトコンドリアの反応の経時変化が平均化され、正確な応答を測定していない可能性もある。特にミトコンドリア機能の重要な指標である膜電位は、ミトコンドリア内外の電荷の移動を用いて測定するため、個々のミトコンドリアのレベルで測定しないと経時変化を追うことは困難である。 上記の理由から、細胞内信号をミトコンドリアで変換する機構を正確に調べるために、個々のミトコンドリアでその反応機構を調べることが必要とされてきた。本研究では、1個のミトコンドリアで活性の経時変化を測定する技術を開発し、NADHの生成、フラビン蛋白質の還元、膜電位の変化を検出することに成功した。
|