研究概要 |
チトクロムbc_1複合体はミトコンドリア呼吸鎖においてユビキノールからチトクロムcへの電子伝達を行うとともにプロトンの能動輸送を行う異なる11種類のサブユニットからなる巨大膜たんばく質複合体である。本酵素の反応機構を明らかにするために結晶化が試みられ、近ごろ、2.9Å分解能でのX線結晶構造が報告された。しかし、原子レベルで反応機構を論じるには不十分である。 膜たんぱく質の結晶化において、たんぱく質をどのような構造の界面活性剤で安定化し結晶化に用いるかということが最も重要である。シュクロースモノカプレートを用いた標品から得られた六方晶系結晶は2.8Å分解能の反射を示したが物理的衝撃やソーキング等に対して弱かった。これに対し、疎水部の末端に環状構造をもつシクロヘキシルマルトシド(Cymal6)を用いると、ソーキング等に耐える質のものとなったが分解能は上がらなかった。Cymal6と同じ構造をもつが疎水部の炭素数が短いCymal5のみでは結晶は得られなかったが、Cymal6にCymal4を混合して用いた標品からは六方晶系結晶が得られ、この結晶もソーキング等に対して強いものであった。その混合比を詳細に検討したところ0.3%Cymal6に対し、0.1%Cymal4を混合した場合が最もよくc軸方向で2.4Å、a,b軸方向で2.7Å分解能を示す結晶が得られた。これらの混合比を変えて得られた結晶の格子定数はシュクロースモノカプレート、Cymal6のみを用いたものと変わらなかった。このことは、Cymal4の添加は結晶中での分子パッキングに対しては影響を与えず、酵素分子の安定性の向上に寄与していることを示唆している。現在までにSPring-8においてnative型結晶のデータの収集を終了した。
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