真核生物におけるプロテアソームは、細胞内で不要になったタンパク質を速やかに分解し、これにより細胞機能を安定に保ち細胞周期の調節を担う分子量75万の巨大な非リソソーム系細胞内プロテアーゼである。またこのタンパク分解は、プロテアソーム活性化因子PA28が結合し複合体を形成することによりタンパク質を特異的に認識・選別し、ペプチド生成による抗原提示機構をも併せて持つ免疫応答系の超分子集合体として機能する。本研究ではこの超分子系の中でタンパク分解を担当するプロテアソームとその免疫系でのPA28の認識・選別および複合体形成機構を3次元立体構造から明らかにすることを目的とした。 牛肝臓から抽出したプロテアソームはMPDを沈殿剤として結晶化を行い、SPring-8大型放射光施設で回折実験を行った。プロテアソームは分子量が非常に大きく結晶の損傷も激しいことから未だ高分解能の完全な回折データセットは得られていない。しかし低分解能ながらバクテリアプロテアソームをモデルとした分子置換法により解析を行い、現在モデル修正、精密化を行っている。また活性化因子PA28については、肝臓からの抽出量が少なく良好な結晶は得られていない。元来、免疫誘導がかかって発現されるものであるから、大量精製のために臓器の変更も含め、細胞培養による発現などを模索中である。これらの実験と並行して溶液中でのプロテアソームとPA28結合様式をさぐるため、X線溶液散乱法による解析を行った。それぞれの慣性半径、最大長を得ることができた。これによりPA28は溶液中では2量体を形成しているものの、プロテアソームとの複合体形成では、それが解離してプロテアソームの片側だけに結合することが示唆された。当初、プロテアソームの両端に結合するもめと考えていたが、興味深い結論を得た。片側だけに結合する意味、ペプチドを厳密に認識しそれを提示する生化学的な機構を明らかにする駆動力になると考えている。
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