酸化ストレス応答に中心的に機能する酵母転写因子yAP-1は、酸化ストレスに応答し細胞質から核にその局在を変化させる。この局在変化がyAP-1ターゲット遺伝子の転写活性化調節の主要なステップとなっていることを示してきた。 本研究では、まずyAP-1の活性および核局在はCrmlにより負に制御されることを明らかにした。Crmlは核外輸送シグナル(NES)を持つ蛋白質をRanGTP存在下で認識し、核外輸送する核外輸送のレセプターであり、yAP-1もまたCrmlによる核外輸送されていることが明らかとなった。すなわち細胞質のyAP-1は常に核内輸送されているが、同時にCrmlにより核外輸送されており、結果的にyAP-1の核内濃度が低く保たれている。酸化ストレスによりyAP-1の核内輸送は変化しないことから、CrmlによるyAP-1の核外輸送のステップが酸化ストレスにより阻害されると考えられ、CrmlとyAP-1の相互作用に注目してさらに研究を進めた。Two hybrid法を用いて検討した結果、酵母細胞中でCrmlはyAP-1と相互作用するが、この相互作用にはyAP-1のカルボキシ末端のドメイン(CRD)が重要な役割を果たしている。この相互作用にはCRDが必要で、核外輸送されなくなったyAP-1のCRDアミノ酸置換変異によりこの相互作用は検出されなくなる。またyAP-1とCrmlとの相互作用はグルタチオンSトランスフェラーゼに融合させたyAP-1(gst-yAP-1)を酵母細胞内で発現させ抽出する実験系の場合でも同様に観察された。しかもこの場合、酸化ストレスによりその相互作用が弱くなること、相互作用の調節にはCRD内のシステイン残基が必要であることを示唆している。今後どのようなシステイン残基の変化がyAP-1とCrmlとの相互作用調節に寄与しているかを検討していく。
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