大腸菌の染色体上、約240kbp間隔毎の染色体DNA領域を蛍光in situハイブリダイゼーション法のプローブとして用い、それぞれの染色体領域が細胞分裂周期の間にどのような細胞局在性を示すか明らかにした。約1Mbpに渡る染色体領域はよく似た細胞内局在性を示した。染色体複製起点を含む領域では、染色体複製起点に代表されるような局在性、すなわち複製後にすみやかに細胞のそれぞれの端に移動し細胞分裂が完了するまでそこに局在する。一方、環状の大腸菌染色体上で複製起点とは対称に位置する複製終点を含む約1Mbp染色体領域においても、やはりこの広範囲な領域で終点領域に特徴的な局在性があることがわかった。これらのことから原核細胞の環状染色体は順序よく、遺伝子のならびにしたがって折りたたまれているらしいこと、また折たたまれた染色体には複製起点または終点領域を含む2ヶ所の機能ドメインがあり、これらが局在性や移動にかかわることが明らかになった。染色体の逆位変異により終点領域が複製起点に近接した変異株が分離されている。この株における複製起点、終点領域の細胞内局在性を調べ、終点領域は複製起点領域とは別にこの領域に特異的な細胞内局在性をとることを明らかにした。このことからも終点領域に独自の細胞内移動と局在性にかかわる機構があることが実証された。おもしろいことに、この逆位変異株では20数%という高頻度で無核細胞が出てくる。分裂直前の細胞で複製起点が分裂面(細胞中央)に位置するといった異常な局在性がみられ、一方の娘細胞に染色体DNAが偏って他方は無核であった。これはこの変異株で複製起点と終点領域がそれぞれ独自の局在性をとったとき、逆位の結果短くなった複製起点と終点領域の間の染色体領域が折れたたまれ縮み、この力により複製起点または終点領域が引きもどされたためと考えられ、これもまた、複製起点と終点領域がそれぞれ次の独自の局在機構を持つ結果によるものと思われる。
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