原核細胞の染色体DNAは複製後に娘細胞へと正確に分配されている。本研究では蛍光in situハイブリダイジェーション(FISH)法を用いて染色体上の特定のDNA領域、複製起点と複製終点領域が細胞分裂時に細胞内でどのように挙動しているのかを初めて明かにすることができた。 複製起点領域は分裂直後の細胞では核様体の一端に局在していた。複製起点領域は複製後に倍加するとそのコピーの一つが反対側の核様体の端に移動した。移動後は細胞が分裂する間、それぞれの複製起点領域は核様体の端に局在する。一方、複製終点領域もまた分裂直後の細胞では核様体の一端に局在していた。二重標識方法によって複製起点、複製終点領域の細胞内の分布を同時に観察したところ、新生細胞では複製起点、複製終点領域は常に対局して核様体のそれぞれの端に位置していた。 原核細胞内においても細胞分裂周期に応じた特定の染色体領域の動的な局在化が見られることから、原核細胞独自の染色体分配装置があるものと考えられる。さらに大腸菌の染色体上、約240kbp間隔毎の染色体DNA領域を蛍光in situハイブリダイゼーション法のプローブとして用い、それぞれの染色体領域が細胞分裂周期の間にどのような細胞局在性を示すか明らかにした。約1Mbpに渡る染色体領域はよく似た細胞内局在性を示した。染色体複製起点を含む領域では、染色体複製起点に代表されるような局在性を示す。一方、環状の大腸菌染色体上で複製起点とは対称に位置する複製終点を含む約1Mbpの染色体領域においても、やはりこの広範囲な領域で終点領域に特徴的な局在性があることがわかった。 これらの結果から原核細胞の環状染色体は順序よく、遺伝子のならびにしたがって折りたたまれているらしいこと、また折たたまれた染色体には複製起点または終点領域を含む2ヶ所の機能ドメインがあり、これらが局在性や移動にかかわることが明らかになった。染色体の逆位変異の実験結果からも複製起点と終点領域がそれぞれ次の独自の局在機構を持つことが示唆された。
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