研究概要 |
私たちが同定した低分子量G蛋白質のM-RasはPC12細胞に神経細胞への分化をもたらす.この分化誘導のシグナル伝達経路を調べた.その結果,M-Rasは神経成長因子(NGF)ではなくcAMPによる分化誘導にかかわっていることが明らかになった.さらにM-Rasは転写因子のCREBを活性化することにより分化を誘導することが示された.またcAMPによって活性化されるPKAによりM-RasのC末端側がリン酸化された.したがって,cAMP→PKA→M-Ras→?→CREBという経路で分化が誘導されることが明らかになった.この経路は既知のRasやRap1による分化誘導の経路とは異なっていた.CREBは長期記憶に不可欠な役割を担っていることから,M-Rasが長期記憶を含む脳の高次機能の制御にかかわっている可能性が考えられる.この可能性を,M-Ras遺伝子のターゲディングにより検討するために,M-Ras遺伝子のクローニングとマッピングを行った.M-Rasの機能を解明する一環として,その標的蛋白質のクローニングを行った.その結果,新規の蛋白質(MRB10,MRB11)をコードするcDNAsが得られた.MRB10はイノシトールポリリン酸5-フォスファターゼ活性をもち,MRB11はSac1相同蛋白質であった. RhoDを培養細胞に導入するとストレスファイバーと接着斑の消失が起こった.さらに細胞運動の抑制がもたらされた.また細胞質分裂を抑制することにより,培養細胞やXenopus胚に多核化を引き起こした.これらの作用はRhoAの作用に拮抗していることが示された.そこでRhoDがRhoAあるいはRhoAの制御蛋白質や標的蛋白質に結合して,それらの機能を阻害することにより,これらの作用をもたらしているのかどうかを検討する目的で,RhoDの標的蛋白質の同定を行っている.またRhoDは筋細胞分化の抑制とアポトーシスの誘導を引き起こしたので,これらの機構についても調べている.
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