1、VEGF受容体からのシグナル伝達の解析。 我々はこれまでに典型的な受容体型チロシンキナーゼであるEGF受容体の解析を行い、ほとんどの自己リン酸化部位を欠失させても他の膜タンパク質を利用し、Shcを介するRasの活性化が生じること、その系により細胞増殖とトランスフォーメーションが引き起こされることを示してきた。今年度は、血管新生に重要なチロシンキナーゼ型受容体KDR(VEGFR2)からのシグナル伝達を調べた。その結果、VEGF刺激においてもShcのリン酸化はほとんど認められず、PLCγ-PKC-Raf-MEK-MAPキナーゼ系を介するDNA合成が誘導されることを見出した。VEGFR2はNIH3T3細胞の増殖活性は弱く、トランスフォーミング活性は全く認められない。従って、Shcを介さない受容体キナーゼのシグナル伝達が存在すること、しかし、細胞癌化に関わる強いシグナル伝達にはShc-Ras系が重要であることが示唆された。 2、Shc欠損トリ細胞株を利用した細胞内シグナル伝達の解析。 Shcが細胞内でどのようなシグナル伝達に必須の役割を果たすかを調べるには、Shc遺伝子をhomologgous recombinationにより欠失させ、Shc(-/-)細胞を利用することは有用である。そこで、トリDT40細胞をもちいてShc-欠損の細胞株を樹立し、それをもちいてEGFRからのERK活性化とJNK活性化に対する反応を調べた。その結果、ERKの活性化にはGrb2が存在すればShc(-/-)でも認められるが、JNK活性化にはShcが必須であることが明らかとなった。
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