我々はこれまでに典型的な受容体型チロシンキナーゼであるEGF受容体の解析を行い、ほとんどの自己リン酸化部位を欠失させても他の膜タンパク質を利用し、Shcを介するRasの活性化が生じること、その系により細胞増殖とトランスフォーメーションが引き起こされることを示してきた。これらの知見をもとに、さらに受容体型チロシンキナーゼのシグナル伝達を解析した。 1.EGF受容体からの増殖抑制シグナルの解析 EGF受容体を高発現するA431ヒト上皮がん細胞株においては、低濃度EGFでは増殖が刺激されるが高濃度EGFでは逆に増殖抑制がかかる。そのシグナルを調べた結果、PKC阻害剤やPKC-delta阻害剤で解除されることが明らかとなった。このことは、EGF受容体の異常に強い活性化が、PKC-deltaによる負のシグナル伝達を引き起こしていることを強く示唆するものである。 2.血管内皮細胞の増殖シグナルを正に伝えるVEGF受容体の機能解析 血管新生に重要なチロシンキナーゼ型受容体KDR(VEGFR2)からのシグナル伝達を調べた。その結果、VEGF刺激においてもShcのリン酸化はほとんど認められず、PLCγ-PKC-Raf-MEK-MAPキナーゼ系を介するDNA合成が誘導されることを見出した。VEGFR2はNIH3T3細胞の増殖活性は弱く、トランスフォーミング活性は全く認められない。従って、Shcを介さない受容体キナーゼのシグナル伝達が存在すること、しかし、細胞癌化に関わる強いシグナル伝達にはShc-Ras系が重要であることが示唆された。
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