研究概要 |
これまでに我々は胎生肝細胞の培養系を確立し,成熟肝細胞の分化マーカーの発現を誘導する液性分子(オンコスタチンM;OSM)を同定した.OSMの受容体のサブユニットの一つであるgp130を欠損したマウスにおいては,分化マーカーの発現量の減少や,成熟肝機能の一つである糖代謝能の低下を認め,gp130を介したOSMのシグナルが,生体内においても肝細胞の成熟・分化に関与することが明らかとなった.次に我々は,OSMによる肝発生の促進シグナルに関与する細胞内シグナル伝達経路を明らかにすることを目的とした遺伝子導入実験を行い,転写因子の一つであるSTAT3が重要な役割を担っていることを突き止めた(投稿中).さらに,様々なシグナル伝達の阻害剤を用いた実験から,肝発生シグナルには細胞内の蛋白質の脱リン酸化酵素が関与し,OSM-gp130-STAT3経路の標的分子として機能している可能性が示唆された(投稿準備中). 他方,胎生肝が造血器官であることに着目し,この細胞培養系に血液肝細胞を添加したところ,血液細胞は活発に増殖し,7-10日で数百倍にも増加した.この培養系において産出される血液細胞を詳細に解析したところ,様々な系列の血液細胞が含まれていることが明らかとなり,しかも添加するサイトカインやホルモンによる機能修飾により,産出される血液細胞の系列をコントロールできることがわかった.また,OSMにより肝実質細胞の成熟・分化を誘導すると,造血ストローマとしての機能が著しく失われることが判明した.現在,以上の成果を数報の論文として投稿しており,その内の一つはすでに米国の国際科学雑誌(PNAS)に受理された.
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