本研究の目的は、DNA-PK(DNA依存性プロテインキナーゼ)が細胞の機能あるいは細胞の運命を全体として精妙に統御しているとの仮説を立証することにある。マウスSCIDの原因遺伝子がDNA-PKであることから、DNA-PKは少なくともV(D)J組換えとDNA2重鎖切断修復に共通するDNA切断末端再結合過程に関与している。DNA-PKの特徴はPARP(ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ)とも類似していることから、DNA-PKとPARPの関連、相互作用及び機能分担に焦点を当てた研究を開始した。両者は互いに修飾し合い、互いの機能を調節している可能性があり、事実、PARPはDNA-PKによるリン酸化を受け活性が抑制された。さらに、DNA-PKのDNA結合性調節成分であるKuタンパク質の代わりに、PARPが少なくともin vitroでは機能することを発見した。現在、PARPのドメイン構造に対応した組換えタンパク質を作製し、調節成分としての機能ドメインを探索している。従来の研究から、DNA-PKは生存に必須ではないが、個体や細胞が健康あるいは健全に生きていくために必要な、DNAを介した多くの出来事の制御に関与しているものと想定している。また、PARPのノックアウトマウスにもある種のDNA修復能の低下が認められるだけで、重大な障害は見られない。そこで、DNA-PKとPARPが、お互いの機能を部分的に相補していると想定し、ダブルノックアウトマウスの作製を目指した。DNA-PKを欠失しているSCID(scid^<-/->)マウスとPARP欠損(parp^<-/->)マウスからダブルノックアウト(scid^<-/->・parp^<-/->)マウスを作製することと、13.5日の胎仔からの繊維芽細胞の株化も目指した。現在までのところ、雄129匹と雌89匹が生まれ、その内、雌51匹について遺伝子解析を行ったが、scid^<-/->・parp^<-/->マウスは得られていない。初代培養胎仔繊維芽細胞ではscid^<-/->・parp^<-/->細胞が得られ、株化を目指している。
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