研究概要 |
本年度は互いに相同性の高いRasとR-Rasの生体内における役割分担を筋芽細胞由来のC2C12細胞を用いて調べた.まずC2C12の走化性因子であるFGFやHGF,IGF-1がRasを活性化することが観察されたため,走化性移動におけるRasの関与を調べた.その結果,優性抑制型Rasはどの因子による走化性移動も抑制した.また活性型RasをC2C12に発現させると細胞の運動性が亢進した.これらのことから,C2C12の走化性移動においてRasが重要な役割を果たしていることが明らかとなった.一方,C2C12の筋管細胞への分化においては,活性型RasがC2C12の分化を抑制するのに対して,活性型R-Rasは分化を促進した.さらにC2C12が分化する際にR-Rasの活性化が認められたため,R-Rasの活性化を抑制する目的でR-Ras-GAPを発現させたところ,C2C12の分化は抑制された.これらの結果から,C2C12の分化においてはR-Rasが重要な役割を果たしていることが明らかになった.以上の結果から,筋発生においては,RasとR-Rasが時間的かつ空間的に異なる制御を受けることによって,各々走化性移動,細胞分化という異なった役割を果たしている可能性が示唆された. また昨年度の本計画において,RalがRasによって誘導されるHT1080細胞の足場非依存性増殖に関与していることを示しので,本年度はRalの下流で制御を受けている細胞周期関連遺伝子の検索を試みた.その結果,HT1080を足場非存在下で培養した場合に観察されるp27(Kip1)の蓄積が活性型Ralによって抑制されることを見いだした.一方,優性抑制型Ralはp27の蓄積を促進した.これらの結果から,Ralはp27の制御を介して,Rasによって誘導される足場非依存性増殖を促進している可能性が考えられた.
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