酵母において蛋白質の細胞内輸送(分泌)経路が遮断されると、リボソーム構成成分遺伝子群の転写が特異的に著しく抑制されることを見出し発表した。リボソーム上で蛋白質が合成されて小胞体に入る段階から細胞膜へ移行する最後の段階まで分泌経路のいずれの段階を遮断してもこの転写抑制がおこることから、細胞膜形成阻害が何らかのシグナルとなり、それが核まで情報伝達されると推定している。本研究ではこの情報伝達の分子メカニズムを解明することを目的とする。 リポソーム蛋白質遺伝子のプロモーター制御下にあるHIS3をレポーター遺伝子として含むプラスミドを形質転換した酵母温度感受性分泌変異株sly1(his3)から、制限温度においてもリボソーム蛋白質遺伝子の転写が抑制されない二重変異株(すなわち情報伝達系に異常のある株)をスクリーニングし、数個の変異株を取得した。そのうちの1つrrs1-1の低温感受性を指標に新規の必須遺伝子RRS1をクローニングした。rrs1-1はORFの中ほどに停止コドンへの変異があり、野生型蛋白質の約1/2の分子量の蛋白質が発現していた。rrs1-1変異株においては分泌遮断時にリボソーム蛋白質遺伝子とrRNA遺伝子の両方の転写が抑制されなくなっていた。RRS1の機能を解析するためにGAL1プロモーター制御下のRRS1に依存して生育する株を作成した。ガラクトース培地からグルコース培地に移すことによりRrs1pを欠失させた細胞においては、preーrRNAのプロセッシングが遅くなっており、また60Sリボソームサブユニットのアセンブリに異常が生じていた。Rrs1pはリボソーム生合成に必須な機能を持ち、また分泌遮断によるシグナル伝達において重要な役割を担っていることが示唆される。
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