動物細胞のM期進行制御における分子機構を解明することを目的として、M期に働いているであろうキナーゼ遺伝子の検索を行ない、発見したキナーゼ・ファミリー遺伝子群のM期進行制御過程における機能解析を行なった。その結果、次の諸点を明らかにした。 1.M期制御に深く係わっていると考えられている酵母ipl1およびハエauroraに類縁のセリン/スレオニン・キナーゼをコードする遺伝子群が動物細胞に存在することを独自に発見した。 2.これらのセリン/スレオニン・キナーゼは想定アミノ酸配から、Aキナーゼの新しいサブグループであることがわかった。 3.このキナーゼ・ファミリーには、増殖細胞でののみ発見しているもの以外に、心臓などの非増殖性臓器の細胞で発現している遺伝子もあった。 4.最初に解析を行なったAIM-1は、種々の実験から、M期で機能しているキナーゼで、特に、M期進行の後半、細胞質分裂に深く係わっていることがわかった。 5.AIM-2はSTK15として報告のあったキナーゼで、M期初期の分裂極分離課程と密接に関係している可能性があった。 6.AIM-1、AIM-2共に、M期でそのキナーゼ活性は間期と比較して高く、AIM-1では、Post Metaphaseでその活性は最大に達した。 7.AIM-1とAIM-2は転写レベルで別々の制御を受けているらしいことが、巨核球分化系細胞を用いた実験とヒト大腸癌での発現比較実験から、示唆された。また、癌化の過程で、これらの遺伝子は互いに別々の機構で、M期分裂過程の正常なDNA量衝維持のための染色体分配を乱れさせる効果を持つと考えられた。
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