接着性の細胞は基質との接着が増殖に必要である。しかしがん化された細胞は基質非依存的な増殖能を獲得している。従って、がん化細胞を研究することによって基質非依存的な細胞増殖の機構が理解され、ひいては細胞増殖自体について新しい知見が得られると考えこの研究をスタートした。一般に正常細胞のがん化には2つ以上のがん関連遺伝子の異常が必要であるが、ほとんどのケースでがん遺伝子の協調がん化機構は分っていない。本研究では協調がん化を示す代表的なペアーであるがん遺伝子mycとrasとに注目した。まず、誘導可能なプロモーター下でmyc発現を人為的に制御できる癌細胞(J.Biochem.1998)、およびc-Mycとv-Rasの両方の活性発現を人為的にコントロールできるmyc/ras癌細胞を作った。これらの細胞を使い、myc/rasがん細胞中で活性化rasが下流のMEK(MAPKK)活性化を通してMyc依存的アポトーシスを抑制していることを発見した(Oncogene2000;1999年10月生化学会シンポジウム)。そしてこのアポトーシス調節機構は新規のものであること、ある種のがん細胞の成立にとってMEKによるアポトーシス抑制が基本的に重要であることを明らかにした。本研究ではがん化に伴う基質非依存的な増殖の研究を始めたが、より根源的な細胞の生死に関わる問題がmyc、ras、2つの癌遺伝子によって制御されていることを明かすることができた。アポトーシスは形態形成、細胞がん化など基本的な生物学的問題を理解する上で重要な現象である。近年アポトーシス実行のメカニズムについては急速に理解が深まっているが、アポトーシス誘導をコントロールする機構はいまだ未知の部分が多く残されている。今後は本研究により開発された樹立細胞を用いて、MycとRasによるアポトーシス調節機構をさらに解明していく。また、本研究事実をもとにヒトがん細胞に対する最適な治療法を開発したい。
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