哺乳動物の精子の成熟は、精巣上体において、上皮細胞から分泌される種々のタンパク質の作用を受けて行われる。本研究の対象となる16kDaタンパク質は、研究代表者らが、高い特異性を持ったコレステロール結合タンパク質として、ブタ精巣上体分泌液から精製したタンパク質である。cDNAのクローニングにより、ヒトやラットなどで精巣上体に特異的に発現しているHE1タンパク質のホモログであることが確認されている。 本年度は、まずこのタンパク質へのコレステロール結合の性質を調べた。このタンパク質は、1分子に1個のコレステロール結合部位を持ち、その結合の解離定数は2.3μMであった。また、精子細胞膜へのコレステロールの結合を抑え、細胞膜からのコレステロールの解離を促進する作用があることが明かとなった。精巣上体における成熟の際に、精子細胞膜のコレステロール含量が減少することが知られており、このタンパク質は、これを担うものであることが強く示唆された。 一方コレステロール含量の低下は、雌性生殖道内での受精能獲得の過程でも起こることが知られている。そこで、16kDaタンパク質が、雌の生殖器官でも発現しているかどうかを確かめたところ、卵巣、輸卵管、子宮で、高い発現が認められた。更に、精子の受精能獲得を促進して、先体反応を促進する作用があることが確かめられた。このタンパク質が、精巣上体での精子成熟ばかりでなく、雌性生殖道内での受精能獲得の際にも、精子細胞膜のコレステロール含量を減少させることによって、精子に受精能を付与していると考えられた。
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