IDGF(insect-detrived growth factor)は、研究代表者らがこれまでに、センチニクバエ胚由来培養細胞であるNIH-Sape-4培養上清から、昆虫としては初めて単離、精製することに成功した細胞増殖因子である。cDNAクローニングの結果、IDGFが、既存のいかなる細胞増殖因子とも有意な相同性を示さない、構造的に全く新しいタイプの細胞増殖因子であることが明らかになっている。本研究では遺伝学的手法を導入できるショウジョウバエにおいて、そのホモローグ同定を試み、IDGFと全長に渡る相同性を示すものの、分泌タンパクであるIDGFとは異なり、膜貫通領域を有するタンパクをコードする新規のcDNAクローンを得た。遺伝子発現解析を行ったところ、この遺伝子(male-specific IDGF(ms-I)と命名)は、精巣特異的に発現していることを見出した。この結果からms-Iは、IDGFファミリーに属する膜結合型細胞増殖因子として、精子形成過程に特有の役割を担っていることが予想された。そこでその遺伝子発現細胞を調べたところ成熟一次精母細胞であり、またms-I蛋白は、分化段階のより進んだ細胞で検出されることがわかった。さらに4種類のオス不妊変異体におけるms-I遺伝子の発現を解析したところいずれの変異体でもms-I遺伝子の発現は見られなかった。これらの結果は、ms-Iが分化段階の進んだ精子形成過程で必須の役割を果たす遺伝子であることを示唆する。
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