本研究の目的は、網膜色素上皮が脱分化過程を経て網膜神経層に分化するプロセスにおいて、細胞系譜の解析とその制御因子を明らかにすることである。平成10年度はウズラ胚の突然変異体とイモリ成体を材料にして研究を進めた。 1. ウズラシルバー変異体では胚発生過程で特定の部域にある色素上皮が網膜に分化転換する。色素上皮を培養して、(1)分化転換には野生型と同様FGFが必要であること、(2)シルバー色素上皮はFGFに対する感受性が野生型より10〜20倍高いことを明らかにした。また、発生過程の観察からシルバー色素上皮の基底膜には高いレベルのラミニンとヘパラン硫酸残基が存在することが明らかになった。これらのことがら、シルバーでは細胞外基質とFGFの相互作用によって分化転換が誘導されると考えられ、今後特定の部域でだけ分化転換がおこることを明らかにする必要がある。Mitfはシルバーの原因遺伝子と想定されているが、なぜ基底膜に変化が生じるかを明らかにする必要がある。Mitfは神経堤細胞にも発現するので、発生過程での神経堤細胞の分布などについて調査をおこないつつある。 2. イモリの色素上皮が網膜に分化転換するためにどのような分子が必要かは全く不明である。四肢再生では神経支配が再生に影響することが知られている。網膜再生の制御因子を探す目的で、あらかじめ視神経切断をおこなった後で網膜を除去して再生にどのように影響するかを調べた。まだ個体数は不十分であるが、視神経切断の結果、色素上皮の細胞分裂数が増加する傾向が見られた。今後充分な個体数で、経時的に詳細に調べる必要がある。
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