昨年度に引き続き、イモリ網膜再生を再現しうる器官培養系、組織培養系の確立を目指した。また、これらの培養系で実験をおこない、脈絡膜に由来する網膜再生因子の存在を明らかにした。 色素上皮と脈絡膜を剥がさずに共に器官培養すると、約10日頃にニューロン状の細胞が多数出現する。これらの細胞は種々の神経特異抗体で陽性である。従って、色素上皮からニューロンへの分化転換と見なすことができる。次に、色素上皮を酵素処理によって脈絡膜から分離する方法を考案して、色素上皮を単独で同じ条件で培養した。この場合は上皮形態がよく維持され、ニューロンへの分化転換は観察できなかった。いったん剥離した色素上皮を再び脈絡膜に結合させて培養すると、分化転換が観察できた。これらの結果から、脈絡膜由来の因子が分化転換に必要であることが強く示唆された。現在、この因子が液性のものか、または細胞外基質成分かを確認する実験をおこなっている。 色素上皮単独培養にFGF-2を添加すると器官培養と同様に分化転換がおこった。しかし、器官培養に比べ、ニューロンの出現頻度は低く、時期もかなり遅れ、FGF-2が脈絡膜由来因子とは必ずしも考えられない結果であった。なお、10日間FGF-2無添加で培養すると、再びFGF-2を添加してももはや分化転換しないことから、色素上皮細胞に何らかの生理的変化が起こっていると考えられる。 次に、網膜除去後のイモリと器官培養組織の両方でBrdUを取り込ませ、いつDNAの合成が始まるのかを調べた。イモリ眼球では、網膜除去後4日〜5日にほぼ一斉に色素上皮細胞がBrdUでラベルされた。一方、器官培養においても、ほぼ同時期(培養開始後、5日目)に多数の色素上皮細胞がBrdUでラベルされた。これらの実験によって、眼球内においても器官培養においても、色素上皮が増殖を開始するまでに約5日の時間を要すること、この期間に脈絡組織と相互作用することが重要な意味を持つことが明らかになった。
|