研究概要 |
ヒト生体内にはこれまでのβ-1,4-ガラクトース転移酵素(β-1,4-GalTI)と相同性を有する酵素がさらに5つ存在することが明らかとなり、相同性が高い順にβ-1,4-GalT II,111,IV,V,VIと命名されている。我々の酵素は5番目に位置するので、以下β-1,4-GalTVとよぶ。これまでの報告から糖タンパク質糖鎖のガラクトシル化にはβ-1.4-GalT I,II,Vの3つが関与していると考えられたので、これらの酵素の機能を解析するため、まずβ-1,4-GalT I,II,Vのマウスの遺伝子をクローニングした。これをプローブに用いてマウスの各組織におけるβ-1.4-GalT遺伝子の発現を解析すると、β-1,4-GalTIは心臓、肺、肝臓、腎臓で、β-1,4-GalT IIは脳と精巣で、またβ-1,4-GalTVは心臓、脳、肝臓、腎臓で高かった。興味深いことに、β-1,4-GalT Iの遺伝子発現は成体マウスの脳ではほとんど見られなかった。 そこでマウス脳の発達過程に焦点をおいて、これらの酵素の遺伝子発現を解析した。その結果、β-1,4-GalT Iの遺伝子発現は胎児期では見られるが、出生直後から減少し成体では見られなかった。β-1,4-GalT IIの遺伝子発現は個体発生過程を通して、一定に保たれていた。これに対してβ-1,4-GalTVの遺伝子発現は胎児期で低いが、出生とともに増大することが判明した。以上の結果から、生後脳が発達する過程で糖タンパク質糖鎖のガラクトシル化を行なうのはβ-1,4-GalT IIとVであることが判明した。マウスやヒトの神経芽腫瘍細胞にそれぞれのβ-1,4-GalT II,VのセンスおよびアンチセンスのcDNAをベクターに組込んで細胞に導入発現させ、細胞表面の糖鎖構造の変化と細胞機能との相関を、糖鎖抗原の発現や形態変化の有無を指標に解析している。
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