早期発症型家族性アルツハイマー病(FAD)の主要な原因遺伝子として同定されたプレセニリン1(PS1)のミスセンス変異が最終的にAD脳病変であるAβの沈着に至るカスケードを実証し、かつ、その過程で起こる関連蛋白のプロセッシングをin vivoで解析出来る動物モデルの開発をめざし、FAD関連ヒト遺伝子のトランスジェニック(Tg)マウスの作製に取り組んだ。ヒト野生型PS1(wtPS1)を発現するTgマウスおよびPS1ミスセンス変異の一つでAβ1-42の産生を充進することが示されたcodon146Met→Valを含むPS1(M146VPS1)を発現するTgマウスの作製は完了し、その蛋白の発現を確認した。さらに、もう一つのFADの原因遺伝子であるAPPの717変異型(APP717)を発現するTgマウスの作製も終了し、蛋白の発現も確認した。PS1のN末1-81とC末299-407のGST融合蛋白を調製し、Polyclonal抗体を作製した。これらのTgマウスと抗体を用いてAβ沈着機序の解明を目指す。まず、Aβ沈着のseeding仮説を実証する。変異型APP Tgマウス脳では加齢(一年六ヶ月齢以降)に伴ってはじめてAβの沈着がみられ、変異型PS1TgではAβの沈着がみられないと報告されている。我々は、作製した若年APP717TgマウスあるいはM146VPS1Tgマウス脳にAβpeptideを注入し、これがAβ沈着のseedとして働き、若年APP717Tgマウス脳ではマウス由来の可溶性Aβの沈着を促進するのか、あるいはM146VPS1Tgマウス脳ではマウス由来可溶性Aβの沈着を惹起するのかどうかを検証する。これらの実験を押し進めることによって、Aβ沈着に際してseedの役割に関して責重な知見が得られるものと期待される。
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