研究概要 |
シナプス可塑性を表わす現象として、長期増強(LTP)、刺激後増強(PTP)、長期抑圧(LTD)などが知られている。長期増強は中枢の海馬で初めて見い出された現象で、記億や学習の素過程をなすものであろうと考えられている。長期増強現象は中枢以外の交感神経節などでも見い出されており、こちらの方が刺激投与や固定の容易さの点で、実験材料として優れている。本研究ではネコまたはラットの上頸神経節(SCG)を用いて、長期増強現象を機能形態学的に解明することを目的とした。本年度の研究から次のようなことが明かとなった。 1)長期増強発現の頻度 : 最適の条件づけ刺激(10Hz,50sec)を与えた場合、ネコSCGの約60%において刺激後増強に引き続いて長期増強が発現し、その増強度はコントロール値の約120%であった。30%のSCGでは長期増強の発現に5-10分の遅延が認められた。残り10%のSCGでは長期増強の発現は見い出されなかった。この長期増強発現の有無はどのような生理的条件の相違によるものであるかについて、さらに検索を続けている。 2)シナプス再構築に関わるシナプス形態の変化 : SCGを刺激終了直から1時間に渡る観察期間の任意の時点で、舌動脈経由の局所灌流法を用いて固定し、シナプスの機能的形態変化を電子顕微鏡を用いて検索した。長期増強を発現したSCGでは、解離型シナプスがまず最初に増加し、その出現頻度は5%から約30%へと著明に増加した。続いてシナプス小棘が形成され、その出現頻度もコントロールの0%から9%へと大きく増加した。以上の所見から、まず解離型シナプス、続いてシナプス小棘が形成されることにより、シナプス分割が進行するというシナプス再構築メカニズムが考えられた。このようなメカニズムによるシナプス増加が、長期増強時のシナプス伝達効率増加の機構の一部を形成しているのであろう、と考えられる。
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