自発性行動およびさまざまな環境刺激に対する反応性行動は多様な環境刺激を並列処理する神経回路群の作用により形成され、ホメオスタシスは維持されている。識別性の感覚が視床核を経由して皮質感覚野に達する経路や小脳入力が視床核を介して皮質運動野のニューロンの機能を修飾する神経回路などについては、従来多くの研究があるが、内臓性の求心性入力が視床非特殊核に達し、反応性の行動やそれに付随する自律神経性の変化を誘発する神経回路に関する形態学的基盤は確立されていない。本研究においては、生体のホメオスタシスを乱す様々な環境刺激に対して、反応性の行動や自律神経系の変化を発現する機序に関する形態的基盤を確立することを目的とした。実験には、SD系ラットを用い、まず、甲状腺ホルモン放出因子(TRH)を中枢内に投与した際、さまざまな自律神経性の変化を引き起こすことに着目し、この変化に関与する中枢神経系内の部位を同定した。TRH投与により、内側前頭前皮質の辺縁前および辺縁下領域のV/VI層、視床正中核腹側部、孤束核およびその周囲の網様体のニューロン群は賦活され、他の大脳皮質の大部分(II/III層)、中隔側坐核のshell領域、内側扁桃体核、視床下部外側野のニューロン群は抑制された。また、腹側線条体(側坐核)を中心とした神経回路、特にcore領域とshell領域との間の相互結合に着目し、shell領域からの出力が、core領域を中心とする回路を修飾する可能性に関して解析を行い、shellおよびcoreは、かなり顕著に異なる神経回路を構成していることがわかり、お互いが相互に関連していることを明らかにした。この研究結果により辺縁系-自律神経系の情報によって修飾されたshellからの出力情報が、core領域にもどることによって、coreを中心とした神経回路に辺縁系-自律神経系の情報が関与することが示唆された。
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