ニワトリの頚髄前角で孵卵4-5日に起こる細胞死は、短期間に多くの細胞が死に陥るという特徴を持っており、細胞死の決定や実行機序を明らかにする上でよいモデルになる。われわれは、なるべく生体内に近い環境を保ったまま、細胞死現象を培養条件下で進めることが可能なような外植体を用いた3次元器官培養系を確立ことを目的に本研究に着手した。 (1) 外植体培養法の確立。 コラーゲングル内での三次元培養を行なった。細胞死が始まる直前の時期である孵卵4日弱でニワトリ胚を取り出し、実体顕微鏡下にハンクス液中で内臓と脊索を取り去ったのち、頚部から上位胸部にかけて胚を切り出し、正中で折半し、左右の一方をコントロールとして、一方を数時間から半日の間炭酸ガス培養器中で培養して固定した。凍結切片を作成してTUNEL法を施してコントロールと比べて細胞死が進行したかどうか評価した。その結果、F12を基剤としてウマ血清を添加したもので10時間程度の外植体培養が可能であることが明かとなった。 (2) 外植体培養系でCaspaseに対する阻害剤を試みたところDEVDでTUNEL法で陽性反応を示す細胞数が減少することが明かとなった。そこで脊髄組織を取り出してCaspase活性を直接計測したところcaspase-3様活性の上昇がみられた。 (3) in vivo系の手法の探索。孵卵4日頃のニワトリ胚はまだ血管系が未熟なので、単に卵内に物質を入れても十分局所に達しない可能性がある。そこで、胚周囲の羊膜腔内に高濃度の活性物質を滞留させ、さらに胚の背側正中に切開を加えることで、in vivoながらin vitroと同様の実験ができる系を開発した。この系を用いてDEVDの影響を調べたところDEVDは細胞死における核の変化を特異的に押さえることが明かとなった。また、生理活性物質のGDNFに細胞死抑制効果があることが明らかになりつつある。 今後、外植体培養系とin vivo系を目的に応じて使い分けて研究を進める予定である。
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