ミクログリアの血液脳関門を通過出来る能力を利用し、目的遺伝子をtransfectionしたミクログリアを作製し、末梢血管より、動物個体に投入するシステムの開発に着手し、まず、虚血モデル動物へ応用し、その治療効果について、検討することを目的とし基礎的研究を開始した。GFPをマーカーとして組み込んだアデノウイルスベクターを作製し、株化されたミクログリアを用い、transfectionするための至適条件を検討した。動物へのミクログリアの至適投与方法としては末梢動脈投与(内頚動脈、鎖骨下動脈)、心臓穿刺による方法が良好であった。LacZを組み込んだアデノウイルスベクターを作製し、無処置動物での脳内分布について検討した所大脳皮質、視床、視床下部、小脳、海馬、線状態への分布が認められたが、特に視床に顕著であった。続いて、砂ネズミ一過性虚血後の海馬CA1遅発性神経細胞死に対するglial cell line-derived neurotrophic factor(GDNF)の保護効果を調べる目的で、ヒトGDNFアデノウイルスベクターを脳室内に虚血前投与し、免疫組織学的に検索した。GDNFアデノウイルスぺクター投与群では虚血再開開通後CA1錐体細胞層におけるapoptag陽性細胞の著明な減少を伴う錐体細胞の残存、樹状突起の保持が認められ、虚血再開通後7日ではウイルスベクター非投与群の残存神経細胞7.1%に比較して、ウイルスベクター投与群では、62.8%とたかく、GDNFアデノウイルスベクター前投与により、砂ネズミ一過性脳虚後の海馬CA1錐体細胞に生じる遅延性神経細胞死が効率に抑制されることが本実験から明らかになった。メカニズムに関しては明らかではないが、GDNFはGDNFreceptor αとRetとの複合体形成を誘導し、神経細胞の生存や分化に関わると考えられているので、一過性脳虚後の海馬ではGDNFreceptor αやRet、あるいはその他のレセプターの発現あるいは増加が推定される。
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