wnt-1遺伝子のpoint mutationをもつswayingマウスでは中脳と小脳を中心とする領域に強い形態学的な異常の存在することが確認され、中脳、特に下丘で観察された。サイズ、位置、層構築の異常はwnt-1遺伝子が中脳および中脳-小脳境界部の領域に特異的に発現することから、primaryな変化として出現したことが考えられる。特に下丘の位置の変異のため、中脳の上丘が小脳活樹の白質部分と直接つながっている像や下丘に入る交連線維が2次的に変化している像はwnt-1遺伝子の中脳への作用を考える上で重要な所見である。次に小脳で確認された形態学的な異常、例えば小脳組織の一部の中脳組織内への侵入あるいは小脳前葉と中脳の融合などは中脳、特に下丘の変異のため2次的に中脳と小脳の境界が崩壊され、それにより出現した事が考えられる。その中で、小脳組織の中脳内への侵入は下丘の変異の程度によってかなり左右されることが考えられた。また、中脳内に侵入した小脳組織が小脳が持つ本来の層構造を形成していることは神経回路の再構築を考える上で興味が注がれる。さらにwnt-1遺伝子の欠如が中脳と小脳以外の幅広い中枢神経系の領域に影響しているか否かであるが、今回の検索で、小脳の形態学的変化の2次的な現象として脳幹のオリーブ核が細胞数や層形成の面において異常を持つことが確認され、小脳とオリーブ核の相関関係を解析する上で重要な所見となり得る。 平成10〜11年度の検索で胎生期から成獣に至る間に発現する形態学的な変化を明らかにでき、それらの変化がprimaryかsecondaryのどちらにより出現したのかを把握できた。
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