c-fos遺伝子はいろいろな刺激に対して速やかに発現が誘導される癌遺伝子の一つであり、主に脱分極を伴うCaイオンの細胞内流入、cAMPの増加などにより、神経細胞に誘導されることが分かっている。我々はラット大脳皮質におけるc-fos mRNAの発現に日内変動があり、さらにその発現の様式には2つの様式があることを報告した。また、静脈内麻酔薬であるPropofolの投与によりラットの中枢神経におけるc-fos mRNAの発現にどのような影響があるのかについて検討し、通常暗期に発現が上昇するはずの大脳皮質のc-fos mRNAの発現が、暗期開始2時間前からのPropofolの投与により暗期開始1時間後および2時間後の時点でも全くみられなくなったことを明らかとした。また、Propofolの投与により正中視床核群にc-fos mRNAの発現が見られた。これらの核はベンゾジアゼピン系睡眠薬であるジアゼパムなどにより活性化されることから、Propofolの催眠作用がmidline thalamic nucleiの活性化をもって発揮されるものと考えられた。また、Propofol 20mg/kg、30mg/kg投与により、c-fos mRNAは延髄のオリーブ核および小脳皮質に広範に発現が見られた。また、Propofol 10mg/kgの投与速度では、同部位でのc-fos mRNAの発現はみられなかったことからPropofolがある程度の濃度以上でオリーブ小脳路に何らかの影響を与えるものと考えられた。
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