研究概要 |
現在、アルツハイマー病(AD)研究において最も急がれている問題のひとつは、ADの中核症状である記憶、判断力、思考力の障害を有意に改善するか、あるいはこれらの中核症状の進行を有意に抑制するような薬剤の開発である。このようなADに対する抗痴呆薬としてコリンエステラーゼ阻害剤であるDonepezilは、その有効性が米国で確立され、現在までに世界61カ国で承認申請がなされ、そのうち39カ国で許可されている。しかし、本邦において、現時点ではDonepezil等コリンエステラーゼ阻害剤をしよう出来ないため、本邦でのAD治療は、他剤に求めざるを得ない。これまで、女性ホルモン、抗炎症剤、ビタミンEのADにおける有効性がいくつかの研究グループから報告されてきている。今回、これらの薬物およびコリンアセチルトランスフェラーゼ合成の転写レベルに薬理学的作用点を有するとされる漢方薬の加味温胆湯(北里研究所東洋医学総合研究所)の有用性を榛討した。Estrogen(0.625-1.0mg)、Loxoprofen(180mg)、α-tocopherol(600-1200mg)および加味温胆湯の4剤を併用した群(多剤併用群,n=15)、加味温胆湯単剤群(単剤群,n=21)およびコントロール群(n=24)の3群においてMini-Mental State Examination(MMSE)Scoreの年変化を比較した。その結果、コントロール群では、MMSE年変化は、平均5.1ポイントであったのに対して、単剤群では平均2.7ポイント(P=0.066)、多剤併用群では平均2.1ポイント(P=0.016)と進行抑制効果が示された。
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