研究概要 |
本研究では、ストレスやアポトーシスのシグナル伝達に関与するJNKの中で、特に脳神経系に強く発現が認められるマウスJNK3に相互作用するJSAP1およびJNKBP1の解析を行った。平成10年度の研究によって、JSAP1は、脳神経系においてJNKカスケードの3種のキナーゼを空間的に接近させ、シグナルを効率よく伝達させる場を提供するスキャホールドタンパク質である可能性が強く示唆された(Ito,M.et al.Mol.Cell Biol,1999)。平成11年度は、この結果をふまえ、JSAP1の解析をさらに進めるとともに、JNKBP1の構造解析および機能解析を行い(Koyano,S.et al.FEBS lett.,1999)、以下の結果が得られた。 1.JSAP1の解析:(1)JSAP1は、細胞増殖や分化のシグナル伝達に関与するMAPKカスケードの1つ、ERKカスケードのメンバーcRaf1(MAPKKK)とMEK1(MAPKK)と相互作用することにより、ERKカスケードの活性化を負に制御する。すなわち、JSAP1は、JNKカスケードのスキャホールドタンパク質としてだけでなく、ERKカスケードを抑制する多機能なMAPKカスケード制御タンパク質であると考えられる。このことは、MAPKカスケード間のクロストーク、さらに神経細胞の分化、維持あるいはアポトーシスの統御機構を考える上で興味深い。(2)JSAP1に対するポリクローナル抗体を作製し、マウス成体脳において免疫組織化学的解析を行ったところ、海馬CA1、CA3の錐体細胞、大脳皮質ニューロン、小脳のプリキンエ細胞にその存在が認められ、ストレス等による神経細胞死と密接な連関がある可能性が示唆される。 2.JNKBP1の解析:(1)JNKBP1は、JNK3と同様に脳と精巣で多く発現が認められる。(2)MAPKKKであるMEKK1あるいはTAK1を培養細胞にJNKBP1とともに遺伝子導入すると、JNKカスケードの活性化の増大が認められる。このことから、JNKBP1は、JSAP1と1次構造上全く異なっているものの同様のスキャホールド的な機能を保持している可能性がある。現在、MAPKKKやMAPKKとの結合性を検討中である。
|