本年度は材料調製と精製方法に関する条件設定を行った。 各種条件下で培養したPC12h細胞のマルチュビキチン鎖を特異的ELISAで定量したところ、神経成長因子を1週間作用させて突起形成を誘導すると、マルチュビキチン鎖量が約3倍増加した。また、細胞回収前にプロテアソーム阻害剤MG132を培地に添加すると、その濃度と感作時間に比例してマルチュビキチン鎖量が増加した。その際、過剰感作による細胞傷害性も認めたため、最適な条件を検討し、濃度2μM、感作2時間と決定した。これにより、1mg蛋白あたりマルチュビキチン鎖150ng(MUCRP1換算)が得られる。出発材料のマルチュビキチン鎖は50μg以上確保したいため、蛋白300mg相当、即ち55cm^2培養皿約200枚分の細胞調製を決定した。 精製方法の検討には、大量調製が容易なK562白血病細胞を用い、MG132感作と熱ショック負荷の前処理後、抽出液を調製した。精製第一段階には、結合型ユビキチンに高親和性を示すFK2抗体をSepharoseに固定したカラムを用いた。約300mg蛋白を含む抽出液を同カラムに展開し、吸着成分を高濃度の塩で溶出したところ、蛋白量は0.6%まで減少したがマルチュビキチン鎖は100%回収され、優れた精製効率を得た。次に、これをゲル濾過し、SDS-PAGEでスメアなバンドを示す30kDa以上の成分と複数の明確なバンドを与える30kDa以下の成分を得た。その後の蛋白・免疫化学的検討から、前者の主成分はマルチュビキチン化蛋白と同定され、目的に適う精製標品が得られた。一方、後者には、ユビキチン単〜多量体に加え、複数のユビキチン結合酵素(E2)およびそれらとユビキチンのチオエステル結合体が同定された。こうしたE2の精製・同定は過去に例が無く、本方法の優れた特質が見出された。PC12h細胞のE2の同定も目標に加え検討を進める。
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