研究概要 |
我々は培養ラット海馬神経細胞に抗うつ薬を長期間作用させ、グルココルチコイド受容体の発現量が、2〜3日後に一過性に増加(短期効果)すると共に、10〜14日を要して徐々に増加(長期効果)することを明らかにしている。本研究では、この長期効果が抗うつ薬の臨床効果発現時期に一致して出現することから、抗うつ薬の作用メカニズムに深く関わる効果としてその解析を行なった。 1. 抗うつ薬の長期効果発現に要する14日間のうち、最初の3,4,7,10,14日間だけ薬物を存在させて海馬神経細胞を培養し、[^3H]dexamethasone結合活性を測定したところ、効果発現には少なくとも4日間、充分な効果を得るには少なくとも10日間が必要であった。 2. モノアミンを介した神経伝達に対して異なる効果を有する種々の抗うつ薬、即ち三環系抗うつ薬デシプラミン、アミトリブチリン、四環系抗うつ薬ミアンセリン、選択的セロトニン再取り込み阻害剤パロキセチン、抗精神薬スルピリド、ハロペリドールを、海馬神経細胞に14日間作用させ、ノーザンブロッテイングによりグルココルチコイド受容体mRNAの発現について検討した。各抗うつ薬に加えて、抗うつ効果を併せ持つ抗精神薬スルピリドにより、そのmRNA発現量は有意に増加した。しかし、抗うつ効果を持たない抗精神薬ハロペリドールによっては増加しなかった。 以上より、抗うつ薬のグルココルチコイド受容体の発現に対する効果は、異なる抗うつ薬間で共通に見られ、その効果発現には最初の4日間以上の薬物処理が必要と考えられた。今後、この最初の4日間に誘導・活性化されるチロシンキナーゼの同定を行なうとともに、10〜14日目にグルココルチコイド受容体遺伝子のプロモーター領域に働きかける蛋白質についても検討する。
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