線条体の機能は神経伝達物質であるドーパミンにより調節されており、ドーパミン作用の異常はパーキンソン病や舞踏病をひき起こす。線条体ではドーパミンにより制御される蛋白DARPP-32(dopamine-and cAMP-regulated phosphoprotein of Mr 32kDa)が選択的に発現しており、DARPP-32はイオンチャンネルやポンプの機能、さらには神経細胞の興奮性を調節していることが知られている。DARPP-32はプロテインキナーゼAによりThr34残基がリン酸化されて初めてプロテインフォスファターゼ-1活性抑制蛋白として作用するため、ドーパミンなどの神経伝達物質や細胞内情報伝達物質によるリン酸化調節機構の解明は極めて重要である。本研究は、神経伝達物質によるDAXRPP-32リン酸化調節機構、及び、ドーパミン細胞内シグナリング機構の解明を目指しており、平成10年度の研究により以下の結果を得た。 (1) アセチルコリンによるDARPP-32リン酸化調節の検討では、カルバコールがDARPP-32リン酸化を促進することが明らかとなった。さらに、カルバコールの作用は、ムスカリンレセプター刺激を介していることを明らかにした。 (2) DARPP-32のThr34残基脱リン酸化機構の検討では、カルシニューリンとPP-2Aが相補的に作用してDARPP-32リン酸化レベルを低く維持していることが明らかになった。 (3) DARPP-32のThr75残基はサイクリン依存性キナーゼ(cdc2、cdk5)によりリン酸化される。Thr75残基がリン酸化されたDARPP-32はThr34残基のPKAによるリン酸化を抑制するのみでなく、PKAの活性自体も抑制することが明らかとなった。
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