線条体ではドーパミンにより制御される蛋白DARPP-32(dopamine- and cAMP-regulated phosphoprotein of Mr 32kDa)が選択的に発現しており、DARPP-32はイオンチャンネルやポンプの機能、さらには神経細胞の興奮性を調節している。 DARPP-32はプロテインキナーゼA(PKA)によりThr34残基がリン酸化されて初めてプロテインフォスファターゼ(PP)-1活性抑制蛋白として作用するため、ドーパミンなどの神経伝達物質や細胞内情報伝達物質によるリン酸化調節機構の解明は極めて重要である。本研究は、神経伝達物質によるDARPP-32リン酸化調節機構、及び、ドーパミン細胞内シグナリング機構の解明を目指しており、以下の結果を得た。 (1)アセチルコリンによるDARPP-32/Thr34残基リン酸化調節の検討では、カルバコールがDARPP-32リン酸化を促進することが明らかとなった。さらに、カルバコールの作用は、ムスカリンレセプター刺激を介していることを明らかにした。 (2)DARPP-32/Thr34残基脱リン酸化機構の検討では、カルシニューリンとPP-2Aが相補的に作用してDARPP-32リン酸化レベルを低く維持していることが明らかになった。 (3)DARPP-32/Thr75残基はサイクリン依存性キナーゼ(cdc2、cdk5)によりリン酸化される。Thr75残基がリン酸化されたDARPP-32はPKA活性抑制蛋白として作用することが明らかとなった。 (4)PKA活性化はThr75残基リン酸化レベルを低下させるという結果を得た。"PKAはThr75残基を脱リン酸化することでPKA抑制系を取り除き、Thr34残基をより効率良くリン酸化する"というポジティブフィードバック機構(ドーパミンD1シグナル増幅機構)の存在が示唆された。
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