脳の損傷時あるいは疾患時に観察されるミクログリアの活性化は病態や修復・再生過程に強く影響を与えると推測されるため、その解析が望まれてきた。昨年度はニューロン由来でミクログリアの活性化を誘導すると推定されたニューロトロフィンやATPに注目してミクログリアに対する作用を検討した。一方、活性化の抑制に働く因子の存在も明らかになってきた。今年度は、その抑制性因子であるTGFβファミリーのなかで、特に強力であったGDNFの作用を詳細に検討した。その結果、GDNFはミクログリアの生存性、形態、増殖性には影響を与えないが、ウロキナーゼやプラスミノーゲンの分泌を抑制することが示された。作用濃度はTGFβより1000倍低い濃度で十分であった。GDNFは細胞機能および代謝を全面的に抑制する可能性があったが、細胞内の酸ホスファターゼ活性を調べてみると、その比活性を数倍増加させることから、その抑制作用は選択的であると考えられた。一方、ミクログリアにおける作用メカニズムを知るためにGDNFレセプターを探索したところ、レセプターを構成するReおよびGFRα-1蛋白の存在が示された。Retはリガンドの添加によりチロシンのリン酸化が誘導され、ERK(p42/44)も一過性に活性化された。以上の結果より、ミクログリアはレセプター依存性にGDNFに応答し、ウロキナーゼやプラスミノーゲンの分泌を抑制することが示された。GDNFは脳内では主にアストロサイトで産生されることから、ミクログリアの分泌抑制はアストロサイトとの相互作用により行われることも推測された。生体内におけるミクログリアの活性化は次第に沈静化されるが、この過程にGDNFが関わる可能性が推測された。
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